熊本県テコンドー協会

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回想 〜くまもとのテコンドー〜

  • 熊本県テコンドー協会
  • 会長 樋口 悦夫

レスリング除外問題を考える

12日、スイスのローザンヌで開催されたIOC理事会に於いて2020年の実施競技の中で除外される競技が理事会決議され、誰もが驚くレスリング競技の除外候補が決定されました。

まだ正式には、9月のIOC総会で決定となりますが、テコンドー、近代五種が危ないと言われていただけにレスリング関係者には、以外な結果に動揺は隠せなかったでしょう。除外された要因は詳しくは分かりませんが、第1回のアテネ大会から恒久競技として君臨してきたレスリングですが、まさか除外とは誰もが驚きを隠せません。

テコンドーは、シドニー五輪から、アテネ、北京、ロンドンと4大会連続で実施されましたが、恒久競技としては未だ決定していない競技の一つでもありました。

テコンドー競技がオリンピックに登場したのは、1988年ソウル五輪で公開競技として採用され、1992年のバルセロナ五輪では、デモンストレーション競技として、1994年のIOC総会で2000年シドニー五輪から正式競技として決定され、続くアテネ、北京、そしてロンドン五輪でも実施されました。日本選手はシドニー五輪で銅メダルに輝いた岡本依子選手や県協会所属の樋口清輝選手、そして続くアテネ、北京五輪まで、岡本選手が連続出場を果たし、昨年のロンドン五輪では、笠原江梨香選手、濱田真由選手の女子2名が出場しました。

テコンドー競技が五輪史上最短でオリンピック競技に採用された背景には、前世界テコンドー連盟「金雲竜」総裁の影響が大きいと言えます。サマランチ前IOC委員長の時代、副委員長であった金雲竜総裁が必然的にテコンドー競技のオリンピック参加を有利に働きかけた事は容易に想像されますし、韓国の国技として、国家が大きく後押しをしたことや、今回の決定に於いても次期大統領、朴氏の働きかけもあったと云われます。テコンドーは、シドニー五輪以降、五輪競技として継続するために、電子防具の採用、大技のポイントを高くして、観客数増員や視聴率アップさせるための工夫やスポーツ先進国以外の開発途上国、小さな国家等も推薦枠を最大限に活かして五輪参加させる等、様々な努力をした事も歴然とした事実です。五輪競技からの除外というプレッシャーから、ロビー活動を始め、様々な改革を進めた経緯は確かにあります。おそらく危ないと言われた近代五種競技も同様と考えます。

IOC自体も、競技の入れ替えを行い、人気のない競技や、世界での普及が今ひとつの競技等は見直し、競技団体の活性化を図ろうとしているとも思われます。ただ、ここで良く考えなくてはならないのは、オリンピックそのものが、莫大な放送権料スポンサー介入等で本来のオリンピックの原点、理念から離れ商業主義になっている事実もあることです。現在のロゲIOC会長になってからは、幾分改善されたと思いますが、例えば、視聴率を上げるため、選手のコンデションを考慮せずに、夜中に競技をおこなったりなど、テレビ局やスポンサーへの配慮とも思える場面が多々あります。

残念ながら、近代オリンピックの父と云われたクーベルタン男爵も嘆いているかもしれません。「スポーツを通じて、文化、国家、人種を超えて世界平和に貢献する」「オリンピックは勝つことよりも参加することに意義がある、結果に至るまでの努力が大切である」と私達に教えてくれています。

テコンドー競技は、今回、中核競技25競技の中に辛うじて入る事が出来ましたが、まだまだ組織的な問題も多く、オリンピック競技への利害関係が蔓延っている事も多々あります。オリンピックへの参加は、アマチュアスポーツ界(競技種目として300競技程度あると云われます)各競技団体の目標であり夢でもあります。

以前、日本の伝統武道「剣道」はオリンピックへの参加を望まないと聞いた事があります。それは、「スポーツ化する事は、普及活動を促進するが、武道としての精神が損なわれる事も多い、伝統を守り日本文化の継承も重要である」

また、県の少林寺拳法連盟のパーテイに参加した折、前民主党のM議員が、「なぜ少林寺拳法は、オリンピック競技を目指さないのですか」と二代目宗家に質問したところ「一つぐらい勝ち負けのない競技や武道があってもいいのではないですか」と云われ、「質問した私が恥ずかしかった」と言っていました。

オリンピック競技は、世界が注目するスポーツのビッグイベントです。しかし、オリンピック競技のみが脚光を浴び、それ以外のスポーツには、目をあまり向けない体質が、日本にもあるような気がします。スポーツはどのスポーツも平等ですし、やっている人は、その競技に誇りを持っていると思います。私が嫌いな言い方にメジャー競技、マイナー競技と、受け方次第では、差別的な用語ととられます。スポーツにメジャーもマイナーもありません、その競技を愛し、誇りを持って自分の限界に挑戦し、素晴らしい人生をスポーツで築く事が出来る事が、最大の幸せと思います。

世の中は、思った通りにならない事が多々多いものです。今回のレスリング除外のニュースは、ある意味、オリンピック至上主義への警鐘かもしれません。

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